睡眠薬と認知症

睡眠薬と認知症

睡眠薬と認知症の関連に関しては以前から議論がいろいろとありますので、まとめてみようと思います。

現在日本で最も使われている睡眠剤はベンゾジアゼピン系の睡眠薬です。
睡眠作用を感じやすく、抗不安作用もあるため、患者さんの満足度を感じやすい薬です。
しかし、依存性が高く、せん妄をきたしやすく、また筋肉をやわらかくする(筋弛緩)作用があるため、転倒しやすくなり、骨折をきたすことがあります。
そのため、非ベンゾジアゼピン系の睡眠剤と呼ばれるものも流行っています。
非ベンゾジアゼピン系はせん妄や筋弛緩作用が少なく、転倒や骨折が少ないとよく説明されています。
しかし、実際にはどちらでも転倒の危険性は上昇しますし、せん妄をひきおこすことがあります。

そもそもベンゾジアゼピン系は中毒性が強く、精神依存、身体依存、離脱反応が強く出ます。
また依存性のため乱用している人も多い薬剤であり、使用方法以上に内服している人も多くみられます。

日本の不眠症の本などをよく読んでいると「医師の指示通りに内服すると依存になることはない」などとかかれていますが、処方通りの内服でも数週間の内服で依存が発生することはすでに国際的には常識となっています。
欧米ではベンゾジアゼピン中毒が社会的な問題となっており、2020年にはアメリカでブラックボックス(薬物を使用する中で最も強い警告)が出され、気軽に処方をしないようになってきています。
一般的に睡眠剤は一時的に使用することはいいと思うのですが、深く考えずにずっと処方されている方が多い印象があります。


ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系の睡眠剤だけでも以下のように多量にあります。
如何にこれまで、世界中で睡眠剤が製造され、多用されていたのかを示していると思います。

ベンゾジアゼピン系
  • アルプラゾラム: ソラナックス、コンスタン
  • ブロマゼパム: レキソタン
  • ブロチゾラム: レンドルミン、グッドミン
  • クロチアゼパム: リーゼ
  • クロキサゾラム: セパゾン
  • ジアゼパム: セルシン
  • エスタゾラム: ユーロジン
  • エチゾラム:デパス
  • ロフラゼプ酸エチル: メイラックス
  • フルニトラゼパム: ロヒプノール、サイレース
  • ロラゼパム: ワイパックス
  • ロルメタゼパム: ロラメット、エバミール 
  • ミダゾラム: ドルミカム
  • ニトラゼパム: ベンザリン、ネルボン 
  • クアゼパム: ドラール
  • トリアゾラム: ハルシオン

非ベンゾジアゼピン系
  • エスゾピクロン: ルネスタ
  • ザレプロン: ソナタ 
  • ゾルピデム: マイスリー
  • ゾピクロン: アモバン

睡眠薬により持続時間は様々で、短時間作動型から長時間作動型まで様々です。
しかし短時間作動型であっても、人によっては翌日の日中でも睡眠薬の成分が体の中に残っており、認知機能が低下することが言われています。
運動シュミレーターを使った実験でも、前日の夜に睡眠薬内服すると、翌日の15時頃までは運転ミスが多かったといわれています。
そのため睡眠剤の添付文書には「運転などの危険な作業に従事させないこと」と書かれているのです。
実際にはこのような説明を受けないまま、睡眠剤を内服し、運転をしている方も多いと思います。



今まで書きました通り、ベンゾジアゼピン系睡眠剤は依存性や転倒の危険性があり、その上、内服で認知症発症のリスクを高める可能性が指摘されています。
2010年くらいまではベンゾジアゼピン系も非ベンゾジアゼピン系も認知症は関連があるという論文が多数報告されていました。
試験では内服量と内服期間に比例して認知症発症率が上昇していると書かれていました。
しかし、2016年に大規模な試験が行われ、そのなかではベンゾジアゼピン系と認知症発症はあまり関連はなかったと報告され、以降は決定的に関連があると報告した論文はなくなってきています。

睡眠剤と認知症発症の関連に関しては相反する論文があるため、結論はついていないのですが、転倒やせん妄などの副作用があり、依存性も強いため、現在では積極的な睡眠剤の使用は勧められていません。

ベンゾジアゼピン系などの睡眠剤を飲んでいる場合、脳波ではα波とよばれる、リラックスした状態の波が出なくなり、β波と呼ばれる、興奮した状態の波が出やすくなります。
そう考えた場合、睡眠剤を飲んでいる場合、なかなかリラックスできず、常に興奮し、焦燥感にさいなまれるようになる可能性があります。

そのため、現在、不眠の治療としては生活環境の整備などの非薬物療法を勧めているのです。
実際には非薬物療法のみでは満足度を得られることは少ないですが、個人的には、必要以上には薬を頼ってまで寝なくてもいいのではと思っています。
年を取ってこれば、なかなか熟睡はできなくなるものですから。



生活環境の整備・睡眠に関して重要なこと

  • 睡眠時間は年齢や個人により大きな差がある。
    特に加齢により睡眠は浅くなり、睡眠時間は短くなる。中途覚醒も増える。
  • ベットでの時間が長いと眠れなくなるので、眠たくなるまでベットに行かない。
  • 寝る時間が早いと、朝早くに覚醒するため、寝る時間を遅らせる。
  • 睡眠時間が長いと中途覚醒が増えるため、睡眠時間を短めに設定する。
  • できるだけ規則正しい生活を心がける。
    起床時間、食事時間、風呂の時間を設定すると規則正しい生活になりやすい。
  • 日中はできるだけ太陽の光を浴びる。日中は部屋のカーテンを開ける。
  • 昼寝は午前の早い時間に10-30分程度。
  • 入浴は就寝時間の2-3時間前とする。
  • 夕方以降はアルコール、タバコ、コーヒーは避ける。
  • 疼痛、かゆみ、頻尿などの対応をする。

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